泉鏡花「外科室」
―慎ましく秘められた恋が、永遠の愛へ凍結する瞬間―「外科室」は、明治28年に発表された短篇小説です。泉鏡花22歳の時の作品で、鏡花文学の原型をもっともよく示す初期の代表作として知られています。この作品が“観念小説”と称され、鏡花は新進作家の仲間入りを果たしました。
(あらすじ)
若き日に交わした一瞬の視線。その視線が九年後、外科医師と患者の貴婦人として再会した男女を一つの幕切れへと向かわせる。それは外科手術のさなか、熱情を凄冷さで閉じ込めるようにして……。
映画「外科室」 |
この陰影深い美世界は現代においても多くの人々に影響を与え、1992年には歌舞伎俳優・坂東玉三郎が監督、吉永小百合主演という華々しい布陣で映画化され、話題になりました。
一度として交わされない愛に殉じた男女の、一瞬と一生。泉鏡花独特のロマンティシズムで織り上げられた、透き通る程に純粋な愛の形が鮮烈な作品です。