2015年3月12日

朗読者たち ――器


前回、前々回と紹介した二人の朗読者

俳優 奈佐健臣  演出家(作家・美術家 以降略)北川原梓

彼らは、朗読者の全作品を担う『快飛行家スミス(kaihikouka-smith)』の面々です。

快飛行家スミス公演スチル

奈佐健臣、北川原梓二人による、演劇を中心とした多角的表現ユニット。「観客が経験・体感する舞台」をモットーに劇場を飛び出し、古民家、工場、洋館、寺等「場所」に拘った独創的な一人芝居を数多く上演。
舞台上に留まらず、エントランスから客席までに及ぶ空間演出―言葉、声、躰、空間―その全てを繋ぐ美的世界観に定評を得て、演劇界にとどまることなく、ジャンルを超えた表現の空を旋回している。 朗読者 企画製作。 http://sky.geocities.jp/smith_kaihikouka/

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そんな彼らと川口との馴れ初めはというと。

2007年5月。『月の船』という一人芝居が、ここ川口で上演されました。
会場は、KAWAGUCHI ART FACTORY(以降 KAF)。企画製作主催は快飛行家スミス。
当時東京都内だけで活動していた彼らが、より濃密な‘場’、物語のある空間を求めて辿り着いたのが、鋳物工場の特異空間をそのまま活かしたアートスペースである、KAFでした。
KAWAGUCHI ART FACTORY SPACE4
KAWAGUCHI ATR FACTORY SPACE-4
はじめて訪れたまちに戸惑いながらも、彼らは一目でその空間と共鳴したそうです。そしてオーナー:金子良治氏の承諾を得て、すぐさま公演の企画を立案。それは、興行のセオリー (立地の良し悪しや集客の算段他他)をことごとく無視した大胆不敵にして無謀な計画案で、快飛行家スミス両人の話では、「元々僕らの周りにいた演劇関係者は誰もが呆れていた」そうです。
とはいえ、無謀なことにはどこか魅力もついて回るもので、その匂いに魅かれたアーティストやKAF関係者の協力を得て、『月の船』はとうとう上演に漕ぎ着けました。

舞台は、架空の鉄の町・月船町。何ヶ月も雨が降り止まず、錆付き朽ちていく運命を無気力に見つめる人々と、母を求め彷徨う一人の青年の、再生船出の物語。
<呼び覚ませ、鉄の町の記憶!!>を合言葉に、鉄の本質とその精神性がファンタジックにロマンティックに描かれました。
川口の、鋳物工場の、KAFの為だけの、物語が生まれたのです。
そして、‘場’が抱える力とためらうことなく融合する、芝居ともアートとも括れない表現が評判を呼び、約一ヶ月というロングランの末、その公演は幕を下ろしました。

快飛行家スミス「月の船」フライヤー
2007年上演『月の船』フライヤー
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そして2013年、朗読者 in KAWAGUCHI。こちらの発端についてはまた改めて。

6年前彼らは‘場’と向き合い、今は‘まち’と向き合っています。プロジェクトの違いとはいえ、随分キャパシティが広がりました。かなり感覚に違いがあるのではと聞いたところ、「そうでもない」といいます。「フォーカスはずれないから、問題ない」とのこと。

彼らは元々劇場という枠を飛び出し、演劇という枠を置き去りにした。だからこそ、まちという‘複雑さ’とすんなり向かい合えるのかもしれません。